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KOKIA (08) 〜宝石の奔流 (stream of jewels)。輝きつつも力強く流れる歌〜
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KOKIAさんの新しいアルバム、『Remember me』が発売されました。聴いた感想を書きたいと思います。 このアルバムを聴いた後でもなお、KOKIAさんの歌の本当の魅力は生で聴かないと分からない、と思います。しかし、このアルバムが、彼女の歌を生かすことを含めて、あらゆる点で非常に注意深く丁寧につくられていることは、一回通して聴けばすぐ分かります。KOKIAさん本人はもちろん、多くの人たちが、尋常でない労力を注いでつくりあげたCDだと思います。完成度の高さには、無条件に賛辞を捧げざるをえません。ほんとうにすばらしいCDです。 とは言え、私はどうしてもKOKIAさんの歌に耳がいってしまいますので、もっぱら歌について書くことになりますが。 このアルバムで、KOKIAさんは、かなり自覚的に、曲によって歌い方を変えています。それは、一つの歌い方の様々なバリエーション、という程度の異なり方にはおさまっていません。ときに別の人が歌っているのではと感じるぐらい、曲によって歌い方が異なります。 もちろん、歌によって何かを表現する人のありかたとして、あくまで一つの歌い方にこだわるという方向性もすばらしいと思います。しかし、曲によって、単に声色を変えるといった程度ではなく、発声方法から変えてしまうというのも、ひとつの立派な歌による表現のありかただと思います。しかも、KOKIAさんの場合、そのおのおのが、一つ一つ独立した歌い方になっているのです。 特に、驚くほど違うと感じるのは、「そら」です。まるで別人です。アルバムの他のどの曲でも、この歌い方を聴くことはできません。強いて言えば、ファースト・アルバムの『Song Bird』では、すべての曲がこの「そら」という曲に近い歌い方で歌われています。声の出し方が素直で純粋なんですね。しかし、『Song Bird』の歌い方には、はっきりした確信のようなものが強く感じられなかった。かわいくまとまりすぎていた感じがする。その一方、「そら」では、「この曲はこう歌うんだ」という明確な意図を感じることができます。アルバム全体の流れとしても、この「そら」で小休止、ということでしょうか。長さ的にもちょうど半分くらいですし。 「Different way」も、同じく声の出し方が素直です。「双人のなかなんだから・・・」のあたりなど。しかし、うねってねばるようなニュアンスが混在しています。このうねってねばるようなニュアンスは、『trip trip』でもすでにKOKIAさんの歌を一貫して特徴付けていました。声を途切れさせるといったニュアンスで歌っていた『song bird』では、全く聴かれなかったものです。このニュアンスがあるおかげで、歌が、モノローグではなくて、人に何かを伝えられる流れになっているのです。 「私の太陽」は、「あなたは太陽のように きびしく私に言った 強く生きなさい 強く生きなさい」あたりの低めの声と、サビの裏声とのコントラストが心地よいですね。この歌詞、気に入っています。あなたは太陽のように、きびしく私に言った、強く生きなさい、強く生きなさい・・・。 「?」では、声を当てる体の場所が違うんですね、何となく。KOKIAさんの声から離れても、この曲はアレンジが80年代洋楽風で、渋谷クアトロのライブで聴いて以来、個人的に気に入っているんですが、声の出し方もこの曲は独特です。声を直線的に背中に当てて支えていて、その分、声がぐっと上に伸びている感じです。サビの「人間に・・・」の「に・・・」のビブラートが、のどのかなり高い位置で響いています。声が上に伸びているというのは、そういう意味です。そのため、ストレートなロックという曲想が良く生きています。 期待していた「I believe 〜海の底から〜」は、期待以上の出来です。(タイトルの変更については、このほうが歌詞との一体感が出るので、変更してよかったと思います。)もちろん、生で聴くこの曲は、もっとすごいのですが。この曲では、KOKIAさんは、この曲でしかやらない歌い方をするのです。CDでは、残念ながら、生で歌っているKOKIAさんをアクリルケースに閉じ込めて、そのアクリル板越しに聴いている、という感じです。しかしこれはCDというメディアに内在する限界だと思います。 だから、CDでしかこの「I believe 〜海の底から〜」聴いたことのないかたは、実物の声は、CDで聴く声からアクリル板一枚を除き去ったような感じだ、と想像して聴いてみてください。特に、最後のほうで転調してサビのリフレインに突入するあたりは、生で聴くと、全身に鳥肌が立ちます。CDでも、この曲が特異な歌い方で歌われていることはお分かりいただけると思いますが。歌詞で言えば、「I believe」の「I」のところの声の張り方は、たぶん誰にも真似ができない、KOKIAさん独特の歌唱法の領域です。「sigh」という曲も、かなり近い歌い方ですね。 「I believe 〜海の底から〜」の裏声ではない高音域と、「sigh」での中音域とでの声の響き方は、絶品です。きらきら輝いているのだけれど、やわらかいという感じでもなく、優しいという感じでもなく、しっかりとしていて、太いんですね。宝石の急流とでも言いましょうか。もっと押し流されたいです。 「安心の中」でも、上の二曲に比べると曲全体のトーンが抑え気味ではありますが、中音域は同じような響きをしています。2003年11月8日のNACK5で、自作曲を歌われていたときも、この強くて輝きのある中音域が聴けました。今後しばらくは、彼女の歌を特徴付ける代表的な魅力になっていくのではないでしょうか。 「Remember the kiss」は、KOKIAさんの声を一つだけにしたのが、とても成功しています。個人的には、この曲のように、一切声を重ねない曲がもっとあってもよかったと思います。特に、「I believe」は、サビで声を重ねるとしても、ユニゾンだけでよかったのではないかと感じます。そのほうが、歌の強さがもっと強調されたような気がします。でも、そうするとアルバムの立体感が弱まってしまうのかもしれません。 この「Remember the kiss」は、プロモーション・ビデオをテレビで見ても、テレビの貧弱なスピーカーが、きちんと歌っているのです。それくらい、彼女の歌が生きている録音になっていると思います。耳がテレビに釘付けになります。 「Happy birthday to me」のAメロのところも、同じ理由で好きです。歌までの距離が近く感じられます。そういうふうに声を定位させているからなのかもしれません。とにかく、歌声がとてもリアルに感じられます。全体として聴いても、歌に日本のフォークソングのような親近感を覚えます。ビブラートの響き方に、いい意味での脱力感があるからでしょう。 「with music」は、強さよりも透明感を意識した声の出し方になっていますね。あまり腹の底に響くという感じではありません。イギリスのフォーク・シンガー的に、線をちょっと細めにした歌です。 「大事なものは目蓋の裏」では、緊張感もしくは閉塞感のようなものを強調するためでしょうか、声が広がっていくのではなくて、体のすぐ正面で響いている感じがします。あえて声を自分の手元にとどめている。この曲に独特の歌い方です。 いずれにしても、このアルバムを通して聴くと、KOKIAさんの歌の身体性が感じられます。つまり、彼女の歌が、彼女の体に根付いているということが、良く感じられます。本当は、生で聴いたときにしか感じられない、彼女の歌が持つ独特の音圧の中にこそ、そういう身体性は、もっと素直に感じることができるのです。しかし、CDでも、それに近いものを感じることはできます。 写真をやっている方ならご存知だと思いますが、人間の肉眼が感じ取ることのできる一番暗い光と一番明るい光との間の明るさの幅に比べると、紙の上に再現できる明るさの幅、つまり、プリントしたときに再現される明るさの幅は、本当に狭いのです。肉眼が反応してくれる明るさの幅の中の、ほんのわずかの部分しか、紙の上では再現できない。 同じように、人間の耳が直接感じ取ることのできる音の大小の幅に比べれば、CDで再現できる音の大小の幅なんて、たかが知れているのでしょう。どうしてもCDにはそういう欠点があります。しかし、そんなCDであっても、今回のこの『Remember me』に関しては、KOKIAさんの歌の質の高さを、かなり良く伝えていると思います。 ただし、音の大小というのは、単に物理的な世界の話なのです。ときに弱く歌い、ときに強く歌うのは、そうしなければならない動機があるからです。曲によって歌い方を変えているということに関しても、それは単に技術的なことで、本当に大切なのは、その背後にある、「なぜ歌い方を変えなければならないか」という動機の部分です。 その動機というのは、それぞれの曲に対するKOKIAさんの思い入れであり、その気持ちの部分さえ感じ取ることができれば、ライブであろうが、CDであろうが、曲に固有のダイナミズムとドラマが、ちゃんと伝わってくるんですね、本当は。 逆に言えば、いくら耳が良くても、KOKIAさんがそれぞれの曲にどんな気持ちをこめて歌っているかを感じ取ることができなければ、平板な印象しか受け取ることができないでしょう。 もちろん、KOKIAさんの歌に、あらかじめある程度の思い入れがなければ、そういう聴き方も簡単にはできないのかもしれません。しかし、私は、彼女の歌には普遍性がある、と思うのです。彼女の生の歌を間近で聴く機会を、多くの人が持つことが出来れば、これこそが日本の歌い手の質を一気に向上させるための最も手っ取り早い方法だとさえ、思っています。 『Remember me』が大々的にプロモーションされて、KOKIAさんは一つの大きな波を迎えていると思います。この波が、また次の大きな波を呼ぶのか、そうでないかは、J-POPのリスナーの、音楽を聴き分ける力にかかっています。私はJ-POPのリスナーについて、あまり楽観視はしていません。ですから、KOKIAさんのCDが爆発的に売れることはないと思っています。 しかし、彼女のような人には、短期間で異常に多くの歌う機会を持つことで消耗してしまうよりも、持続的に歌を歌い続けて欲しいのです。良い歌を、できるだけ長く歌い続けることで、日本のポピュラー・ソングの水準を一定以上に維持する役割を担って欲しいのです。もちろん、KOKIAさんの作詞家、作曲家としての側面も、もっと評価されるべきだとは思っていますが。 さて、アルバムがこれだけ大きく宣伝されているということは、彼女のミュージシャンとしての活動に、それだけたくさんの人とたくさんのお金とがかかわっているということです。自分の気持ちだけではなく、他人の気持ちも考える素直な心であれば、このような状況に苦しさを感じるはずです。自分が歌うということが、自分ひとりだけを左右するものではなくなっているからです。しかし、彼女の歌には、泥の地上界と水晶の天上界とを、全く同じ糸で紡ぎ出す力があります。生きることが夢のようなものだとしたら、それは、夢にも実人生と同じような強いリアリティがあるということなのです。 いつまでもいつまでも、歌が彼女の力でありますように。 |
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